監査上の主要な検討事項(KAM)(1)

2021年3月期決算に係る上場企業の監査から、KAMが適用となります。KAMとは、Key Audit Mattersの略で、日本語では「監査上の主要な検討事項」となります。

KAMについては、日本公認会計士協会の監査基準委員会報告701「独立監査人の監査報告書における監査上の主要な検討事項の報告」(以下、「監基報701」)において、その内容が示されています。

KAMは、監査人が当年度の監査で特に重要と判断した事項を、監査報告書において記載することで、監査人が実施する監査に関する透明性を高め、財務諸表利用者に監査報告書への理解を深めてもらうことを意図しているものです。KAMとして記載する具体的な内容としては、(1)関連する財務諸表における注記事項がある場合は当該注記事項への参照 (2)個々の監査上の主要な検討事項の内容 (3)財務諸表監査において特に重要であるため当該事項を監査上の主要な検討事項に決定した理由 (4)当該事項に対する監査上の対応となります(「監基報701」12)。

KAMは、当期の財務諸表の監査において、監査人が特に重要と判断した事項をいいますが、監査役等に伝達した事項の中から選択されることとなっているため、前提としてKAMとしての記載前に、会社の監査役等との十分なコミュニケーションが必要とされます。また、特に重要な事項とされていますが、その際に考慮する要因として、特別な検討を必要とするリスクが識別された事項または重要な虚偽表示のリスクが高いと評価された事項であるかどうか、見積もりの不確実性が高いと識別された事項を含め経営者の重要な判断を伴う事項であるかどうか、当年度において発生した重要な事象または取引の影響等を考慮して決定されます(「監基報701」8)。

そもそも監査においては二重責任の原則、すなわち財務諸表の作成責任は経営者にあり、財務諸表の監査意見の表明に関する責任は監査人にあることから、監査人が監査報告書においてKAMを記載することで、KAMが財務諸表そのものになるものではありません。しかし、KAMとして記載するにあたり、その内容が未公表の情報となる可能性もあります。その場合の監査人の対応としては、その未公表の情報を経営者に追加情報として財務諸表等において開示してもらうように促す必要があります。そのため、監査における実務面からは、KAMの導入により、監査役等とのコミュニケーションの機会や経営陣との開示内容についてのすり合わせの時間が増加することになります。

KAMについては、2017年6月の金融庁からの提言「「監査報告書の透明化」について」において、監査上の主要な検討事項に関する情報が示されることが、監査報告書の情報価値を高め、会計監査についての財務諸表利用者の理解を深める意義があることを示しており、それを踏まえて日本公認会計士協会等の関係者による意見交換を経て定められたものであり、今後KAMとしての記載が進められる中で投資家等に浸透していくことが期待されています。