サステナビリティに関する開示について

1.サステナビリティとは

 最近、いろいろな場面でサステナビリティ情報に関する開示が取り上げられているように思います。例えば、開示されている上場企業の人事情報では、サステナビリティ推進部といった名称の部署を新たに設ける企業が増えたと感じます。今回は、このサステナビリティに関しての最近の動向や今後の考えるべきことについてまとめてみたいと思います。なお、サステナビリティとは、日本語では「持続可能性」と訳されますが、今回取り上げるサステナビリティは、社会や企業が地球の環境を壊さず継続的に存続できる可能性を前提に記載しています。

2.サステナビリティの重要性と具体的な動向

 環境破壊や地球温暖化などにより、地球環境はさらに難しい状況に進みつつある現在、我々が存続できるためには、社会や企業が、どのような考えをもって、どのような取り組みを行っているのかが非常に重要です。このため、最近は企業からサステナビリティに関する情報が提供されることが求められています。
 具体的な動向としては、2021年に国際会計基準財団(IFRS財団)が国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)の設置を公表し、その後サステナビリティに関する国際基準の検討が進んだことから、2022年に日本においてサステナビリティ基準委員会(SSBJ)が新設されました。国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)は、企業の環境・社会・ガバナンス(ESG)分野における開示基準を策定するための組織です。また、サステナビリティ基準委員会(SSBJ)は、日本におけるサステナビリティに関する開示基準の開発に関する組織で、サステナビリティ開示基準の調査研究・開発、国際的なサステナビリティ開示基準の開発への貢献、並びにディスクロージャーに関する諸制度の調査研究及びそれらを踏まえた提言などを行うことを主たる目的としています。
 サステナビリティ基準委員会(SSBJ)からは、2023年8月にサステナビリティ開示基準に関する今後の計画が示されており、それによると、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)のIFRS S1号「サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項」に相当する日本における基準やIFRS S2号「気候関連開示」に相当する日本における基準といった2つの基準の開発を進めており、両基準とも、2023年度中に公開草案の公表を目指しています。

3.我が国におけるサステナビリティに関する開示

 日本においては、企業の気候変動や人的資本などのサステナビリティに関連する内容は、統合報告書などで企業の任意に開示されていましたが、企業のサステナビリティ情報開示のための企業内容等の開示に関する内閣府令の改正が行われ、2023年3月期の有価証券報告書から、「サステナビリティに関する考え方と取組」の記載欄を新設され、サステナビリティに関するガバナンス、戦略、リスク管理、指標及び目標といった項目の開示が行われることになりました。

4.有価証券報告書におけるサステナビリティの記載内容

 有価証券報告書におけるサステナビリティの開示の内容は、以下の4項目に分かれて記載することが求められています。

①ガバナンス:サステナビリティに関連するリスク及び機会に対するガバナンス体制
②戦略:サステナビリティに関連するリスク及び機会に対処する取り組み
③リスク管理:サステナビリティ関連のリスク及び機会を識別・評価・管理するために用いるプロセス
④指標及び目標:サステナビリティ関連のリスク及び機会の実績を評価・管理するために用いる情報であり、人材育成方針や社内環境整備方針に関する指標の内容、当該指標による目標・実績。また、一定の企業においては、女性管理職比率、男児育児休業等取得率や男女賃金格差についても記載

 上記4項目についての開示が必要とされていますが、現状の開示規制では、具体的な記載方法が詳細には規定されていないため、各企業の具体的な取り組み状況に応じて記載することとなります。
 上場各社の有価証券報告書をみると、各項目について、各企業独自の記載をしており、例えば「ガバナンス」について、サステナビリティに関する経営方針を明確に示すとともに、サステナビリティを巡る課題は取締役会で議論し、その戦略の方針を示し、モニタリングを実施するといった体制を整備している企業があります。また、具体的な対応については、サスティナビリティに関する委員会等を組織して対応するといった企業もありました。次に「戦略」については、気候変動に対する対応など、サステナビリティの重要テーマを定め、それを機会やリスクといった観点から分析し、それに対する具体的な評価指標(KPI)について、将来年度ごとに明確にしている企業もありました。「リスク管理」については、気候変動に影響するリスクを分析し、そのリスクに対する対応を具体的な対応を記載している企業や異常気象によるサプライチェーンへの影響を分析し、そのリスクへの対応を記載している企業もありました。「指標及び目標」については、自社で利用する電力の再エネ化も目標値を示す企業や男性の育児休暇取得率の目標値を示す企業がありました。

5.サステナビリティに関する今後の取り組み

 上述したように、現状、具体的な開示の記載方法が示されていないことから、上場企業においても、サステナビリティに関する記載内容には、温度感の違いがあるように思えます。もちろん企業ごとに地球温暖化に対する影響度などは大きく異なるため、記載内容に違いが生じることは当然ですが、サステナビリティ基準委員会(SSBJ)からの開示基準により、さらに具体的なサステナビリティに関する開示内容を示すことは有用であると考えています。
 さらに、サステナビリティに関して、社会全体の理解度を高めるための仕組みを作っていくことが有効であり、そのための組織や人材の育成に取り組むことも考えていくべきではないでしょうか。